第3項 「腸の恒常性維持と腸内細菌」免疫との関係

 

腸内細菌はヒトの消化液で分解できない食物繊維やオリゴ糖を食餌(分解・発酵)して、各種ビタミンやアミノ酸などヒトに必要な栄養素を作り出しています。また腸内細菌の食餌(分解・発酵)によって生産された有用な代謝産物は腸管粘膜でエネルギー源として使われたり、腸の収縮運動を高めるなどの働きをして腸内の重要な役割を担っています。

 近年の研究で腸内細菌が生産する「酵素(代謝酵素と消化酵素)やホルモン(伝達系分泌物)」などが明らかになりつつあります。酵素やホルモンはヒトの細胞でも生産されていますが腸内細菌は約150倍の圧倒的な生産力を有しています。消化や吸収はもちろん、血液や骨、筋肉など生態維持に欠かせない機能も酵素のおかげで成り立っているのです。※酵素のお話は別の項を予定しています。

腸内細菌の生産代謝物の有益効果
・腸上皮質のバリア機能 ・ガン細胞抑制効果 ・大腸細胞のエネルギー源 ・食欲の制御(肥満防止効果) ・糖尿病予防 ・抗ウィルス物質の分泌 ・抗炎症作用 ・蠕動運動(排便サポート) ・免疫機能の活性作用  など
※ご述いたしますが短鎖脂肪酸のお話も今後予定しています。

この様に腸の健康維持(恒常化)には腸内細菌の役割が欠かせません。免疫機能とも密接にかかわっています。

 

■  「腸内細菌叢(そう)人体防御(免疫)機能」の関係です。

腸内細菌叢:菌の生息環境を花畑(フローラ)という意味を持つ腸内フローラと呼ばれています。

腸管には約1000種類、100兆個~1000兆個にも及ぶ腸内細菌が生息しています。腸内細菌は、「善玉の菌悪玉の菌、そのどちらでもない日和見の菌」と、大きく分けて3グループで構成されています。これらの菌は互いに影響しながら、また複雑なバランス(相互関係)で私たちと共存しています

この腸内細菌たち免疫には、密接な関係が確立されていて、腸内細菌なしで免疫は機能しないとも言われています。

通常、健康(正常)な腸内は「善玉菌20%悪玉菌10%日和見菌70%」の割合で均衡が保たれています。以前まではバランスのみが焦点とされていましたが、近年では2:1:7バランスに加えて、総菌数と菌の種類の多さ、つまり腸内細菌多様性」が腸内環境に影響を及ぼすと言われています。特に大半を占める日和見菌は悪玉菌にも善玉菌にもなりえます
善玉菌が優勢な腸内細菌叢のバランスや多様性が崩れ、悪玉菌が優勢になったりすると、日和見菌が悪玉菌に加勢し、感染症だけでなく、ガンや生活習慣病など、免疫機能も含めた様々な不調の原因になることもわかっています。

善玉菌 悪玉菌 日和見菌

対比バランスとその多様性が大切なのです。

 

国別の腸内細菌叢を調べた研究データがありますので先にご覧ください。

早稲田大学の服部正平教授が2016年に発表した研究で、国(地域)の食文化(数千年前から食べられてきた食材)によって共存している腸内細菌の種類や、腸内での菌の形成比率が異なることを示しています。

日本人を含めた12カ国のヒト腸内細菌叢のDNA(メタゲノム配列)を調べた研究で、腸内細菌叢は国ごとに特徴的な細菌叢を形成していて、さらに、欧・米・中国等の人に比べて、日本人の腸内細菌叢は優れていることが判明しました。
・ビフィズス菌の保有量が1番多い。
・炭水化物やアミノ酸代謝の機能性が有利。
・腸内細菌の食餌(分解・発酵)で生産される水素をメタン生成に使用する外国人に比べ、同じ水素を日本人の腸内細菌は酢酸生産に利用している。
・海藻類(の多糖類)を分解する酵素(ポルフィラナーゼ)遺伝子の保有率が日本人約90%に対して外国人は0~15%と低い。

また、日本人の腸内細菌には細胞のDNAが傷ついた時に修復する遺伝子が少なかった。これは、逆にいえば細胞のDNAが傷つきにくい腸内環境であるために、修復の遺伝子を持つ細菌が増えなかったとみられる。DNAの損傷は細胞のガン化につながるため、ガンになりにくい腸内環境と考えられます。
さらに、面白いこともわかりました。腸内細菌は食生活や人種の違いが影響すると考えられてきたが、細菌全体を種類別にグループ分けすると、日本人はフランスやスウェーデンにもっとも近く、米国と中国が同じグループだった。

日本人腸内細菌叢の特徴には、宿主の健康維持に有益な機能が外国よりも多く含まれ、その総合的な有益性は日本人の世界一の平均寿命や低い肥満率等と関連することが示唆されました。

 

日本人の腸内細菌叢 ・ビフィズス菌が多い  ・バクテロイデス属菌が少ない ・プレデポラ属菌が少ない
米国人の腸内細菌叢 ・ビフィズス菌が少ない ・バクテロイデス属菌が多い  ・プレデポラ属菌が中位に多い

「日本人なら米・野菜・木の実・海藻類」 「欧米人なら麦・乳製品・肉 」という具合で数千年もの間、進化の過程で共存する菌種類や形成比率が固定されてきたと言えるのではないでしょうか。
増えすぎると悪さをする悪玉菌も、私たちの腸内で共存しています。ただ多様性とバランスが良ければ「何か有益な作用」を担っているのかもしれません

 

 

善玉菌が作りだす有益な代謝物が免疫機能活性化に関与

善玉菌代謝生産物が免疫機能の活性化や腸の恒常化(健康保持)に大きく関与していることが近年の研究で明らかになっています。

善玉菌乳酸菌・酪酸菌・ビフィズス菌など)がエサを食餌(分解・発酵)すると代謝物を生産します。

代表的なものとしては短鎖脂肪酸乳酸・酢酸・プロピオン酸など)

この有機酸はPH調整で腸内を「弱酸性」に保ち悪玉菌の増殖を抑えています。腸内が弱酸性になる事でミネラル(カルシウムやマグネシウム)の吸収し易くなるとも言われています。生態恒常性(ホメオスタシス)の維持に繋がります。

画像「NHK 人体 第4集 腸」より

短鎖脂肪酸の有益性(※免疫だけに焦点を当てた一例)★印は免疫細胞

酢酸はO―157などの抑制効果があります。

酪酸は大腸皮質のエネルギー源になり、制御性(炎症抑制)Tレグ細胞★にも関与しています(アレルギー疾患の制御)。

プロピオン酸肝臓癌細胞の増殖を抑えるという研究報告があります。

・「短鎖脂肪酸」は有害な二次胆汁酸をできにくくし大腸癌の予防に関与。

酢酸、酪酸、プロピオン酸抗体生産のかなめB細胞★を活性化させ腸管腔内の抗体(免疫グロブリン※1IgAなど)の増産をサポート。

乳酸、ピルビン酸小腸マクロファージの活性化に関与。

活性化された免疫細胞たち最新抗原情報を備えた抗体や伝達物質は血管やリンパ管を通って全身に送られ病原菌やウィルスに対しての防御「免疫」反応を素早く果たせるようになります。もし免疫反応が遅い(不活性)病原菌やウィルス、ガン細胞の増殖が早まる危険があるのです。

※1免疫グロブリン(IgAなど)とは抗原情報を得たT細胞がB細胞に指示を出して生産される抗体のことで唾液などにも含まれています。
IgA抗体
5種類ある抗体の1つで、IgAは主に腸管などの粘膜組織(唾液など)に存在すします。また腸管内へ分泌されて異物が体内に侵入するのを防ぐ重要な役割を持ちます。ちなみにコロナウィルスの抗体検査ではIgMとIgG抗体の検査をしています。

※まだまだある短鎖脂肪酸の有益効果、もっと知りたい方はWikipediaなどご参照ください。

 

ほかにも長寿と腸内細菌を調べたデータがあります。長寿者の腸は元気いっぱいです。

辨野儀己(理化学研究所 農学博士)先生は50年にわたって数千人の便を基に、腸内細菌が人体に与える影響を調べています。21世紀は「腸」の時代!とおっしゃる先生の長寿菌のお話です(日本国内でのデータ)。

「第22回腸内細菌学会  市民公演 資料」より
〝健康長寿者〟に共通する生活習慣は? 私の研究で,近年,いちばん大きな発見は,「健康長寿者の腸には,ある種の腸内細菌が非常に多い」 ということです.その菌は,「酪酸産生菌(酪酸菌)」です。そしてもう1つ,健康長寿者に多いのは, 善玉菌の代表である「ビフィズス菌」です.腸内のビフィズス菌は,通常は加齢によって減少していく のですが,健康長寿者の大便からは,平均値よりはるかに多いビフィズス菌が見つかっています. これらの地域の人々に共通していることは,(①②は善玉菌を増やす方法です、次の項「第4項」でお話します。)

③ 身体をよく動かしている:毎日坂道を上り下りの繰り返し,野菜作りで全身を使っているなど,毎 日身体を動かす生活をしています。とくに足腰が鍛えられているのです。

人は誰もが元気に健康で長生きをしたいと願うものです。健康であることは,笑い,愛を育み,仕事 をし,自分の夢を実現するという人生の目標をかなえる助けとなります。そのためには,“長寿菌”がいっ ぱいいる腸内環境を作り,毎日いいウンチを出す生活をスタートに越したことはありません。寿命さえ 左右する臓器である「」を制することこそが快適なネクスト・ライフを手にする「はじめの一歩」で あると肝に銘じましょう。 「第22回腸内細菌学会  市民公演 資料」より

また辨野先生は、長寿者の多い地域で元気な高齢者から提供された便を調べたところ、一般的には20%以下の酪酸産生菌の比率が40〜50%と非常に高く、ビフィズス菌も明らかに多いことに驚かされたからだ。
こうした高齢者には、畑仕事などで体をよく動かすという生活習慣、野菜中心で肉はあまり食べないという食習慣にも特色があった。「いいウンチをデザインする」ためには、運動5割、野菜中心食4割、発酵食品や乳酸飲料の摂取が1割と、考えています。「第34回日本静脈経腸栄養学会発表資料」より

 

もともと私たちと共存している

腸内細菌叢を健康に保つ(バランスと多様性)こと

が、

腸管恒常化と免疫機能の活性化

にもつながると言う事なのです。

ではどんな事をすれば腸内細菌叢善玉菌優勢バランスと多様性)に良いのでしょうか?
次の項目でご説明します